産後の骨盤矯正は必要?「骨盤の歪み」とは何かを医学的根拠から解説
姿勢矯正
産後骨盤矯正
産後の骨盤矯正は必要?「骨盤の歪み」とは何かを医学的根拠から解説
「出産で骨盤が開いた」
「骨盤が歪んでいるから腰痛が起こる」
「産後は骨盤矯正をした方がいい」
産後の身体について、このような説明を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
確かに妊娠・出産によって身体には大きな変化が起こります。しかし、医学的には「骨盤が歪んでいる」という言葉だけで、身体の状態や痛みの原因を説明することはできません。
では、そもそも「骨盤の歪み」とは何なのでしょうか?
今回は、産後の骨盤矯正について、骨盤の構造や身体機能、現在の医学研究をもとに考えていきます。
① そもそも「骨盤の歪み」とは?
まず理解しておきたいのが、医学的に「骨盤の歪み」という言葉が一つの病名として存在するわけではないということです。一般的に「骨盤が歪んでいる」という場合には、
- 左右の骨盤の高さが違う
- 骨盤が前後に傾いている
- 左右で回旋の違いがある
- 股関節や骨盤周囲の動きに左右差がある
- 姿勢や歩き方に左右差がある
など、さまざまな状態をまとめて表現していることがあります。
しかし、人間の身体は完全な左右対称ではありません。
実際、健康な人であっても骨盤や脊柱の形状・アライメントには個人差があります。2025年に発表された大規模なシステマティックレビュー・メタ解析では、無症状の成人35,913人を対象に脊柱・骨盤のアライメントが調査され、年齢や性別、集団によってさまざまな違いが存在することが示されています。
つまり、
「左右差がある=異常」
「骨盤が傾いている=痛みの原因」
とは限りません。
重要なのは、形だけを見るのではなく、その人に痛みや動作の問題があるのか、身体をどのように使っているのかを確認することです。
② 産後は本当に「骨盤が歪む」の?
妊娠・出産では、腹部が大きくなることや体重・重心の変化、出産に伴う骨盤周囲への負荷などによって、身体の使い方が大きく変化します。
また、産後は授乳や抱っこ、睡眠不足、運動量の低下などによって、腰や骨盤周囲に負担が集中することがあります。
そのため、産後に腰痛や骨盤周囲の痛み、動かしにくさなどを感じることは珍しくありません。ただし、ここでも、
「産後の症状=骨盤が歪んだことが原因」
と単純化することはできません。
産後の骨盤周囲の不調には、筋力、運動制御、関節の動き、身体活動量、心理的要因、生活環境など、複数の要素が関係しています。
実際、産後の腰・骨盤周囲の痛みに対する研究では、体幹の安定化を目的とした運動や理学療法によって、痛みや機能が改善する可能性が報告されています。2026年のシステマティックレビュー・メタ解析でも、産後の腰・骨盤周囲痛に対するコアスタビライゼーション運動について検討されています。
このことからも、産後ケアでは「骨盤の位置を戻す」という発想だけではなく、骨盤周囲を適切に動かし、身体を安定して使える機能を取り戻すことが重要だと考えられます。
③ では、産後の骨盤矯正は必要なの?
結論から言えば、「産後だから全員に骨盤矯正が必要」という医学的根拠はありません。
一方で、産後に腰痛や骨盤周囲の痛み、動作のしづらさなどがある場合には、身体の状態を評価し、必要に応じて運動療法や徒手的な施術などを行うことには意味があります。
ここで重要なのが、「骨盤を正しい位置に戻す」ことだけを目的にしないことです。
例えば、「片側の腰が痛い」、「赤ちゃんを抱くと腰がつらい」、「立ち上がると骨盤周囲に違和感がある」、「歩くと左右差を感じる」
といった場合には、骨盤だけではなく、腰椎、股関節、腹部、骨盤底、体幹などを含めて評価する必要があります。
徒手療法についても、研究では身体の姿勢や骨盤アライメントに短期・中期的な変化がみられることがありますが、すべての姿勢指標が改善するわけではなく、効果は介入や評価項目によって異なります。
したがって、骨盤矯正は、「歪みを治すために全員が受けるもの」ではなく、「身体の状態を評価したうえで、必要な機能改善を目的として活用するもの」
と考える方が医学的には適切です。
④ 「骨盤の歪み」より重要なのは「身体をどう使えているか」
産後ケアで特に重要なのが、静止した姿勢だけではなく、身体を動かしたときの機能を見ることです。
例えば、
- 片脚で立ったときに安定しているか
- 歩行時に左右差があるか
- 股関節をスムーズに動かせるか
- 腹部に適切に力を入れられるか
- 骨盤底筋を収縮・弛緩できるか
- 抱っこや立ち上がり動作で腰に負担が集中していないか
などです。
2026年の研究でも、骨盤帯痛については「痛み」だけでなく、身体機能や活動制限、生活の質、恐怖回避などを含めて評価することが重要とされています。
つまり、産後の骨盤ケアでは、骨盤の形を見る→身体の動きを見る→筋肉・関節の機能を見る→日常生活での身体の使い方を見る
という多角的な評価が重要になります。
⑤ 産後の骨盤ケアで大切なこと
産後の身体を整えるためには、「矯正を受ける」だけではなく、自分自身で身体を動かすことも重要です。例えば、
- 無理のない範囲で歩く
- 骨盤底筋を意識する
- 呼吸に合わせて体幹を使う
- 股関節を動かす
- 腹部に適切に力を入れる練習をする
- 長時間同じ姿勢を続けない
など、日常生活の中で少しずつ身体を動かす習慣を作りましょう。
特に産後の腰・骨盤周囲痛では、体幹の安定化を目的とした運動が痛みや機能の改善に役立つ可能性が報告されています。
「骨盤を正しい位置に固定する」という考え方よりも、必要な筋肉を適切に使い、自分自身で身体を安定させられる状態を目指すことが大切です。
当院が考える「産後の骨盤矯正」
当院では、産後の骨盤ケアを「骨盤の歪みを一律に矯正する施術」とは考えていません。まず、
①現在の痛みや不調
②骨盤・股関節・腰部の動き
③腹部・骨盤周囲の筋機能
④姿勢・動作
⑤抱っこや授乳などの日常生活
を確認します。
そのうえで、必要に応じて施術や運動、EMSなどを組み合わせ、出産によって変化した身体を、日常生活で使いやすい状態に戻していくことを目指します。
骨盤の「形」を変えることだけをゴールにするのではなく、
「痛みなく動ける」
「身体を安定して使える」
「抱っこや家事がしやすい」
「自分で身体をコントロールできる」
という、機能面の改善を重視しています。
まとめ|「骨盤を矯正する」から「身体を使えるようにする」へ
「産後は骨盤が歪むから、必ず骨盤矯正が必要」という考え方は、医学的には少し単純化されすぎています。
骨盤にはもともと個人差があり、左右差や姿勢の違いがあるからといって、それだけで異常とは限りません。
大切なのは、骨盤の形だけではなく、痛み・筋肉・関節・運動機能・姿勢・日常生活を総合的に評価すること。
そして、必要に応じて施術だけでなく、運動やセルフケアを組み合わせながら、自分自身で身体を安定して使える状態をつくることです。
産後の骨盤ケアは、「歪みをゼロにすること」を目的にするのではなく、産後の身体を理解し、毎日の生活をより快適にするための身体づくりとして考えることが大切です。
参考文献・エビデンス
1.産後の腰・骨盤周囲痛に対するコアスタビライゼーション
PubMedで論文を見る
2.産後の腰・骨盤周囲痛に対する理学療法
PubMedで論文を見る
3.骨盤アライメント・姿勢に対する徒手療法
PubMedで論文を見る
4.骨盤帯痛を評価する際の重要なアウトカム
PubMedで論文を見る
著者 Writer

- 院長:廣瀬 翔(ヒロセ ショウ)
- 所有資格:柔道整復師、鍼灸師
生年月日:1986年 6月 19日
出身:神奈川県
趣味:セミナー参加、読書、草花を育てる
得意な施術:筋骨格系に関わる全ての施術、筋膜リリース、運動療法、ハイボルト療法
ご来院されるお客さまへ一言:
施術には段階というものがあります。
急性期などの痛みの緩和、生活に支障はないけど時々痛む、パフォーマンスアップや健康増進、必要な施術を必要な時に行うことが大事です。
単純に良くなったではなく、なぜ痛みが出るのか、どうすれば戻らないのか、解剖生理学を基にしっかりと説明いたします。
人生健康に過ごせるよう痛みの緩和から健康増進まで一緒に目標達成しましょう!
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